四章 技術の問い

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俺は鞄から名刺入れを出した。 初めての名刺交換。 上手くできるだろうか? 俺は口の中で名前を名乗る練習をした。 西園寺さんと桐生さんは小さい声で話をしている。 上代さんは壁にかかった時計を見ている。 西園寺さんが姿勢を正した。 階段から細身で頭髪の薄い男性が降りてきた。 氏家課長か? 「どうもどうもどうも、西園寺さん」男性は言った。 「氏家課長、お世話になっています」西園寺さんは言った。 西園寺さんに続けて上代さんと桐生さんが頭を下げる。 俺も合わせて頭を下げる。 氏家課長だ。 西園寺さんが俺の背中を押す。 「氏家課長、うちに新人が入りました」西園寺さんが両手を広げて挨拶を促す。 「初めまして、テイラーシステムズの朽木です。よろしくお願いいたします」 俺は練習した通りに挨拶をした。 何の変哲も無い挨拶だが、俺の舌は空回りしそうになった。 「どうもどうもどうも、朽木さん。よろしくね」氏家課長は名刺を渡してくれた。 「朽木は勉強熱心で、御社のお役に立てるだろうと期待しています」西園寺さんは氏家課長に俺を売り込んでくれた。 「お役に立てるよう全力を尽くしたいと思います」俺は普段言ったことのない言葉を言った。 「ははははは。これは頼もしい」氏家課長は顔の前で親指を立てた。 「今日は支援で、桐生も連れてきています」西園寺さんは桐生さんを紹介した。 桐生さんは氏家課長に挨拶をした。 「じゃぁ、上に上がって」氏家課長は言った。 俺たちは氏家課長の後について階段を上がった。 二階に寄った後、エレベーターで最上階に向かう。 最上階は社員食堂だった。 白く長いテーブルが綺麗に並んでいる。 テーブルの手前と奥にオレンジの椅子が等間隔で並ぶ。 右手は厨房だった。 「ここしか空いてなくてね」氏家課長は言った。
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