四章 技術の問い

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「ライオンの性能調査をどうやるのかの手順ですが、まずは……」俺は感情を抑えながら西園寺さんに指定された場所を読んだ。 俺は自分で何を言っているのかは分からない。 だが、あたかもよく分かっているかのように読む。 社内で書類を何度も読んだことが幸いした。 変な単語でつっかえることもない。 俺は書類を全部読み終えた。 西園寺さんは思いの外、にこやかにこちらを見ている。 「朽木さん、ありがとうね。大体分かりました」氏家課長は口元を上げた。 良かった! 分かってもらえた。 俺の顧客先での初仕事は無事に終わった。 あとは、どうしてライオンに問題が無いのに調査するのかを考えるだけだ。 俺は氏家さんが西園寺さんにいくつか質問をするのを聞きながら、話を単純にして考えた。 ライオンが一匹いる。 ライオンから採血をする。 ライオンから採血をするのは具合が悪い場合か? それとも具合が良い場合か? ……ライオンから採血をするのは具合が悪い場合もあるし、具合が良い場合もある。 具合が悪い場合は、問題があることを調べるため。 そして、具合が良い場合は、問題が無いことを調べるため。 それぞれ採血をする目的が違うんだ。 今回のリライオンシステム……ライオンの性能調査をするのはライオンに問題が無いことを示すため? 性能調査の結果によってライオンに問題が無いことが分かれば安心できる。 今回の性能調査は健康診断のようなものなんだな。 俺は今回の性能調査の意図が分かった気がした。 桐生さんは健康診断の採血プログラムをライオンに仕込むために来たんだ。 色々なことが有機的につながっていく。 そして、俺が今読んだのは、ライオンの採血をどうやるかの手順だったんだ。 氏家課長が西園寺さんの答えに頷く。 上代さんが俺の左隣で全員の言葉をノートに書き取る。 俺の右隣では桐生さんがしかめっ面でプリントを眺める。 「じゃぁ、ライオンにプログラムを仕込んだ後に結果が分かるということですね?」氏家課長が西園寺さんに確認する。 「はい。結果が分かるのはリライオンシステムにプログラムを仕込んだ後です。前ではありません」西園寺さんが答える。 氏家課長が右手で顎の辺りを触る。
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