五章 信頼関係の問い

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五章 信頼関係の問い

『製品を出荷するシステム、リライオンシステムだ。今度本物を見せてやる』西園寺さんの言葉が脳裏をよぎる。 俺は桐生さんと二人で電車に乗っていた。 この前の打ち合わせから二日経った。 俺は桐生さんとライオンに採血プログラムを仕込みに顧客先に来た。 桐生さんが守衛からバッジを二つ受け取る。 一つを俺に渡してくれた。 「朽木くん。作業は俺がやるから君は手伝いをして欲しい」桐生さんは前髪を撫でながら言った。 「分かりました。どんなことでも手伝います」俺は桐生さんに言った。 俺は桐生さんと顧客先に入った。 顧客先の中は前回来た時と変わらず少しコンクリートの匂いがする。 桐生さんが受付に要件を伝えた。 俺は二回目の訪問に緊張が解けた。 五分経つと階段から氏家課長が降りてきた。 「どうもどうもどうも。桐生さんと朽木さん」氏家課長は左手を挙げながら言った。 「氏家課長、お世話になっています」桐生さんは頭を下げた。 「お世話になっています」俺も頭を下げる。 氏家課長も頭を下げた。 「今日はライオンに例のプログラムを仕込みに?」氏家課長は言った。 「はい、そうです。作業は一時間で終わる見込みです」桐生さんは両手を広げて一時間を強調した。 「分かりました。上に上がってください」俺たちは氏家課長の後について二階に上がった。 氏家課長が『サーバー室』と書かれた部屋の前で立ち止まる。 「リライオンシステムはこの部屋の中です。案内します」氏家課長が ICカードリーダーにカードをかざすと、ピッという音が鳴った。 ガチャリ。 氏家課長が扉を開く。 俺は桐生さん越しに部屋の様子を伺う。 手順書の写真で見た光景。 タワー状の黒い塊が部屋の中に並ぶ。 心なしか冷たい空気が体を包んだ気がした。 「正面の一列がリライオンシステムです。他のシステムは触らないでくださいね」氏家課長が手前から奥に向かって立ち並ぶ黒いタワーのうち、正面の一列を指した。 「はい。分かりました」桐生さんが言った。 ライオン……。 これがライオンなのか……。 俺は黒いタワーをよく見た。 「分からないことがあったら何でも聞いてくださいね」氏家さんは訪問者用のカードを桐生さんに渡して、扉から出て行った。 黒いタワーは電話ボックスのような大きさで俺の背丈より少し大きい。 正面に網が張ってあり、中にサーバーというのだろうか? 機械が何重にも積み重なっている。 それぞれの機械がシューという音を立てる。
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