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なんとなく相識のある瞳同士は、お互いの虹彩にはっきり映り込む。
雷司はひとつ瞬きすればポケットに手を入れて、口を開いた。
「…彼女、泣いてたよ」
原因は真のせいだと断決して言うにはまだ早いが、昨日舞美に話された内容からして可能性が近い。
…雷司も別に、この2人に割り込むつもりはない。ただ、相談された側でもあり…そしてあとひとつ。
「フーン…そうなんデスね。…でも、もう彼女じゃないし」
彼の、こういったあまりにも冷然たる欠如が気になった。
単純に例えれば──興味を持った、知りたくなった、とかだ。
「…別れたの?…色んな悪い噂立ってんのに、コレ以上広まっていいの」
真の噂が広まっていってるのは事実だ。真自身もソレに薄々だか気付いてはいる。だが"悪い"と先頭につけられるとあまり良い気はしなく、微反応する。
真はヒクリと下瞼を歪ますと言葉を返す。
「…ナイショにして下さいよ。…てか、元々あんたが悪いんじゃん。……コレ」
続けて目上の人なのに蓋も被せず生意気な態度を取る彼は、雷司の目線に携帯の画面を見せつけた。
舞美に見せた同様の写真だ。しかし雷司は思ったより驚かず、冷静な様子で写真から避けるように携帯を手で退けさせた。
「何だこれ…消せよ、そういうんじゃない」
呆れ口調で言い付けると、真は緩く口角を上げる。
「…俺の彼女だったのに、セクハラですかー?」
携帯を口元に持って怪しく微笑む。あからさまなこの軽んじる言動にこればかりはと、真を睨み付けた。
「ナメてんのか。…あと、俺先輩だから」
その声色は柔らかでなく、重低で思わず体が恐縮してしまい、真は口を閉じた。
そうして携帯をゆっくりとスラックスのポケットに直し、言葉も直そうと再び向き合った。
「…怒んナイでくださいよ。眞泉センパイ」
真…さらには1年生の間では雷司の名は知れ渡っていた。真はネームプレート見つつ、宥めるつもりか愛想笑いで媚びを売る。
…ふと、先程真がポケットに直したスマホにバイブレーションが振動する。真がハッとして取り出して一目見ると手に持ったまま、雷司を見上げた。
「…とりあえず、お互いヒミツにしときましょーよ」
辺りはすっかり群青に暗くなっている。そろそろ帰らないといけないのはお互い様であろう。
そして、少なからずとも雷司も弱みを握られている状況だ。
真が噂よりも黒かったことが分かったが、まだ霧がかって何がしたいかよく分からない感じだ。
「あ、俺先帰るんで。…じゃあ…」
次に真からチラリと目を見やられると、雷司は無意識に動いていた。
「…待って。LIME教えてくれない?」
雷司は彼の細身の肩を掴んで、そう申した。真は咄嗟のことだったため、ビクリと肩を驚かせたが振り返って応えた。
「…何でですか?」
真からすれば男からLIME教えてなど全くそそらない。これから友達とか遊ぶ仲間になるなら話は別だが、こんなピリついた空気が出来る相手とは渡しがたい。
「念のため。…いーじゃん別に」
「念のためって…」
…と否定しかけつつ、真はポケットからスマホを取り出す。自分より背の高くガタイの良さそうな先輩の圧に負けたのだろうか。
「いースけど…可愛いコとか紹介して下さいよ?」
スマホを操作しながらLIMEが交換できると、雷司は手を離す。
「…もう他の子探してんの、ひでぇヤツ」
そう言いつつ、口角を上げているところが読めないが真は割と簡単に言いふらなさそうと傍らに思い「じゃあ」と再び言って先に帰り去った。
──真は、帰りの夜道にてさっきまで触られていた肩を気にしていた。いや、そうではない。
全身、…身体全体に宿る違和感を感じていた。熱っぽく、刻まれる脈。鼓動。
不本意ながら恐ろしくて、足早に家に帰りすぐに自分の部屋に閉じこもったのであった。
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