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 最初に人魚姫と会ったのは、十五才の誕生日の夜だった。  決して愉快とは言えない誕生日だった。雪がちらつくその冬の日、学校の友達が朝からお祝いしてくれて、ファミレスやらゲーセンやら雑貨屋めぐりやらして、まあここまではよかったのだけれど、別れる間際にちょっとしたことで喧嘩になった。原因なんて今はもう思い出せない。それくらいちょっとしたことだった。でも喧嘩の勢いは全然ちょっとしてなくて、私はその日友達を一人失った。少し前までの最高に楽しかった時間とのコントラストにしてやられて、真っ黒に塗り潰された感情の塊に押し潰されそうだった。家に帰れば私が生まれたことを喜ぶこの日のフィナーレとして、家族がご馳走を用意して待っている。何も知らずに呑気な顔して、ひょっとしたらクラッカーまで鳴らすかもしれない陽気な両親を想像すると泣けてきた。私は今人生にゼツボウしているのだ、と思った。これがヒタンに暮れるってやつか。ニクシミってこういうことか。黒々とした大渦の中心にい る私は、しかし一方で冷静にそう分析していた。     
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