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私が待ち焦がれた、彼女の手を握り、そうしてこの体でその華奢な体を振り回し、この胸に抱き、彼女を自分の物とする。倒錯した欲情が私を支配下に置いて、私を置いてけぼりにした彼女のことを、私はずっとずっと、探し求めていたのだ。ずっと、こうして。何年間も。こうして。私は脳裏に自身が自身に伝えてきた十何年間の回廊の記憶を、自身の汗と共に染み込ませていった。私はとてもはっきりと、冷徹に悟るーー。私は彼女とともにあったのだ。 私は勢い込んで電気階段へと駆け込む。慌てて五階、三階を立て続けに押して、その後すぐに過ちに気付き五階を取り消して、三階へと向かった。 彼女は屹度、三階に居るに違いない。あの華奢な体が真紅のドレスに揺れてなまめかしく揺蕩っているのが、今まさにそこに鮮明に現れているかに見えた。その姿はまさしく、今にも触れられそうな、手に入れられそうな感触……。 チン、と風変わりな音を立てて電気扉が開き、私は蹴押されたように三階へとなだれ込んだ。慌てて手をカーペットに突きそうな自身の体を立て直し、バレエで磨いた筈の体幹を意識の片隅で誇らしげに思いながら、私はある一室へと向かっていった。そこはある男の一室だった。そうと知りながら、私はその扉を踏み抜いたのである。右足が痺れるような感触に、私は一瞬気を失いそうになる。しかし私は持ちこたえて、慌てて眼前に飛び込んできたバスルームへと通じる扉を開いた。横開きである。そして奥には擦りガラス状になったもう一つの画面の中に、男女と思われる絡まり合った肢体のモザイクが、そこから透けて見えていた。 私は恐る恐る、その箱を開けてみた。すると・・・
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