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むかで
「今回で落選100回かあ。俺はどれだけ才能がないんだ」
俺は雑誌を放り投げ畳の上に寝転んだ。小説家を目指し作品を送ること100回、見事にすべて落選していた。
100回だよ100回、俺超頑張っているのにさあ、はあ……とため息をついたとき、壁にむかでが張り付いているのに気がついた。
気落ちしていて退治する気力が沸かなかった俺は、壁をよじ登るむかでを眺めた。
むかでって、漢字で書くと「百足」だよな。足が100個あるのか。靴作るとしたら大変だな、なんて考えた。
もし、むかでの靴職人がいたら、100個作ってやっと「一足」となるのか。職人大変だな。いや、人間の靴職人が、「はあ、なんで人間って足2つあるんだよー。靴2つで一足なんて作るの大変だよ……」なんて言わないよな。それが当たり前だし。ということはむかでの靴職人は当たり前のように靴百個作るってことか。
そういえば、人間が数字を数えるとき、10で一度繰り上がる、十進法で数字を数えるのは、手の指が10本だからって、何かの本で読んだな。
むかでに指があるのかはわからないけど、足が百本あったら、「100」という数字は身近過ぎて、多いとか思わないんだろうな、と思った。
「なあ、百足さんよ。100回落選ってどう思う?」
俺は百足に話しかけた。
「100? そんなの小学校で最初に習うよ。『50+50=100』ってな」
百足はそう答えた。
「なるほど、俺たちにとっての『1+1=2』だな」
俺はそこで目が覚めた。
「夢か、お、恐ろしいな……小説100回落選とか怖っ。今42回落選してるから、この先ありえるけど……」
俺は身震いした。
「だけど、むかでからしたら42回落選なんて大したことないんだろう。よし、次はこのテーマで何か書くかな」
俺はスマホでむかでについて調べた。なんとむかでは足100本ないらしい。42本なんだと。種類によってはもう少し多いのもいるらしいけど、100本はないと。
42本の足を100本に捉えて『百足』ってこと?やれやれ、人間って駄目だなあ。やっぱり足が2本程度しかないから、多少の数字が大きく見えるんだ。42を100と呼んでしまうぐらい。そうだ、俺も42回落選した今、100回落選したような感覚で落ち込んでいた。だから100回落選の夢なんか見たんだろう。
100がなんだ!俺は100を1ぐらいの感覚で生きるぞ。そしたら、他のやつの100倍すごくなれるんだ、と、俺は机に向かった。
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