<第一話>

2/5
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
 上京してきたばかりの、田舎育ちの社会人だ。まだいろいろな意味で若い人物である。まあ、五年しか生きていない俺と比べれば年上ではあるのだろうが、人間の二十代なんてものは俺達からすれば青臭いガキも同然だ。なんといっても、猫は人間よりずっと早いスピードで成熟し、大人になるのである。猫の五歳は、人間ならば充分ベテランのオヤジの領域だろう。 「はあ、マジで憂鬱だよな……なんでまだ火曜日なんだよ。早く来いよ休日……しんど……」  ぶつぶつ言いながらもパンにマーガリンを塗っただけの朝食をする廉。朝、こいつの愚痴を聞いてやるのも俺の仕事だ。ぶっちゃけ傍にいるだけなのだが、それでもこいつにとっては話し相手になってくれている気にはなるらしい。なんといっても、癒しのためだけに俺を実家から連れて来るような男である。とにかく猫が好きなのだ。少々過剰でウザいくらいには。 「クロコさあ。今日も散歩行くんだよな?いつもみたく」 「?」 「あー……いやさ。最近やばい事件が続いてるみたいだから、ちょっと心配でさあ」  小首をかしげてやると、話が伝わったと解釈したのか、男は勝手に話を続けた。 「最近、猫が死ぬ事件が続いてるらしいんだよ。片方は野良だったらしいけど、もう片方は散歩中の飼い猫だったって。……てことは、野良猫だけ狙った事件でもないってことだよな。お前にも首輪はつけてるけど、だから狙われないってことはなさそうでさあ。ほんと、酷いことするよな。猫を捕まえて焼き殺すなんてさ」  そういえば、最近近所の猫仲間の間でも噂になっていたことだ。猫が殺される事件が近隣で続いている、と。焼き殺された、ということは犯人は同じ猫ではなく、人間ということである。猫という生き物を害獣だと決め付けて、ゴキブリ以上に嫌う人間がいるらしいという話は聞いたことがあるが――いくらなんでも、焼き殺すというのはあんまりではないか。俺は眉を顰める。――一応言っておく。わかりづらいだけで、猫にもちゃんと眉というものはあるのだ。 「ありえねーよ、生きたまま焼くってナニソレってかんじ。お前らはこんなに可愛いのになあー?」 「ちょ、やめろ!頬すりすんじゃねえ、バカ!」 「いててて!あははお前の猫パンチは今日も強烈だなあ!!愛が痛いぜ!!」 「愛じゃねえつってんだろ!離れろー!!」
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!