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 医者は一瞬えっ、と顔をしかめ私が見ていた書類を睨み付けた。何か、おかしいことを言ってしまっただろうか。 「や、これは失礼致しました。何でもありませんので、ご心配なく。いやーしかし思い出せた様で良かったです。」 「あ、その、そこの紙に書いてあったのを見ただけで、思い出した訳では…」 「いえ、大丈夫ですよ。恐らく極度の緊張で気を失われたため、頭がぼやけているのでしょう。直に血が巡って、思い出せる様になりますよ。」  確かに医者の言う通り、妙に気だるくてくらくらする。さっきから座っている背もたれ付きの椅子が心地良いのも相まって、余計に目眩がする。私は貧血持ちなのだろうか…まぁ、でもその内良くなると思う。  ところで、私の名前は分かったけれども、この人は一体誰なんだろう。悪い人ではなさそうだけれど、どこか薄暗い物を感じる気がするのは気のせいだろうか。 「あの、変なこと聞いてすみません。あなたの名前は何ですか。」 「あぁ、私のことは普通に先生と呼んで頂いて結構ですよ。医者の名前など業界で威張る位しか価値がありませんから。」     
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