1.9度目

6/8
256人が本棚に入れています
本棚に追加
/204ページ
「では、今から膣部と子宮頸部の細胞を、このブラシで取ります。痛みはありませんし、短時間で終わりますので安心して下さい。」  そう私が言い終わると先生はカーテン越しに手を伸ばして採取用のブラシを患者に見せてくる。綿棒で散々喘いだ私から見ればとても安心できそうに無いほど太く長いブラシを見て、女性はひっ!! と声を漏らし頭を横に振る。そんな私達にお構い無しに先生は「入れますよー深呼吸して、力を抜いてー」と言いながらギザギザの掘削機を奥に入れていく。棒が上下に傾くのを見た瞬間、断末魔に似た金切音が響くと思い、肩をすくめて身構える。  だけどいつの間に終わったのか、すぐに先生がまたも私の腕を叩いて『すぐにこれをそこの液体に入れて!!』と書かれたボードを見せて、エタノールが入った容器を何度も指差す。私は慌てていつの間にか細胞が塗布されたスライドガラスを取り、容器に突っ込む。女性はまだ終わったことに気付かずに顔を反らし歯を食い縛っている。 「あの…もう終わりましたので、力を抜いても大丈夫ですよ?」 「…え、えぇ!!もう、終わったんですか!! 」  先生の言う通り発狂する痛みも無く終わり、ホッとしている彼女を見て、私は何故か残念に思ってしまった。ブラシが傾いたあの時、身体の最奥を無機質に侵食されてしまう感覚を、どの様な表情で耐え忍ぶのか期待して待っていた自分が確かにそこにいた。その証拠に、更にきつく締め上げた私の股が滑りを帯びているのを感じる。  おかしい…  私、この人が悶える姿を、今か今かと待ち焦がれている。  何の怨みもないはずなのに…  だけどこれで診察は終わりじゃ無かった。先生が私を通さずにカーテン越しに、楕円形の輪っかが付いた、さっきのブラシよりも長い棒を患者に見せてくる。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!