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｢ねぇ。もう学校終わったよ?｣
急に背後から声がして、驚いて振り返る。いつの間に近くに来たのか、黒いランドセルを背負った生に溢れた少年がそこにいた。端整な顔立ちで、どこか純粋な雰囲気を漂わせている。どこかで会ったような気がしないでもないけど…何も思い出せない。
｢おい、まー!! そんなやつ放っておいて遊びにいこうぜー!! そいつが寝たフリしているの、いつものことじゃん!!｣
｢この子起こしたらすぐ向かうから!! 先に行っててー!!｣
あいつも物好きだよなーとか言いながら、活発そうな男の子達が教室から離れていく。教室には私とその男の子と、置物だけが残っている。
｢いつもそうやって寝てるよね? 帰らないの?｣
少年は私の方を見て話かけてくるけど、その目は後ろの置物を見据えている。頭がおかしい子でなければ、生きている気配を感じられないこれは一応人間として認識されているらしい。幽霊の私が言うのも可笑しな話だけど。
｢…帰りたくない。｣
置物が遂にその口を開き、人が理解できる音声を発した。なんだ、生きているんだ。同じ仲間じゃないんだ。残念。
｢どうして? 友達と遊んだりしないの?｣
｢友達いない。｣
｢それじゃ、家でゲームして遊ぼうとかしないの?｣
｢家にいたくない。｣
｢…ずっとここでそうしているつもりなの?｣
命がある女の子の人形はその質問には答えなかった。よく分からないけど、これは望んでこうして息を殺してるらしい。本人がそうしたい、話しかけるなというオーラをこれでもかと放っているのにも関わらず、少年は隣の席に座り込む。
｢あのさ。名前なんて言うんだっけ? 同じクラスだけどさ、出席の時いつもいないじゃん。｣
やっぱりあの意志疎通は奇跡だったのだろう。目の前の置物は頻りに話しかけてくる少年には目もくれず、沈黙を貫いている。とはいえ、この少年も録に知りもしない人物にいきなり話かけてくるのは五月蝿いなと思う。ランドセルを背負っているということは小学生だろうし、まだこの年ではナンパという言葉は知らないのだろう。こんなにずけずけと聞かれたらいくら何でも…
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