2.9度目

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 何が『休み』だ。私だけじゃなくこの病院自体が休みだって言ってたじゃないと静かに憤る。電気はついてるし、泥棒かと思って入ってみれば普通に診察してるし…ここの仕事なんか死んでもしたくないけど、訳を聞きたいのはこっちの方だ。 「…なーんだ。もぉ、驚かせないでよぉ。ビックリしたー。」  私達二人がかりの説得によりようやく緊張の糸が途切れたのか、女の子はへなへなと丸いパイプ椅子に座り込む。今時の若者の流行りの格好なのか、同性の私が見ても随分とだらしない格好をしているが、パッと見先生と一事あったかの様な服の乱れは見られない。私が来なかったらどうなってたかは分からないけど、少なくともここに入るまでは普通の診察をしていた様だ。 「えっと、浜園さんだっけ? いつからここで働いてんの? 」 「えっ? お、一昨日からですけど…」 「あ、そーなんだ。いや私何回かここに通ってるんだけど、始めて見る顔だからさ。最初誰この人って思っちゃたよ。」  この娘もこんな辺鄙(へんぴ)なところにある病院の常連だなんて、昨日のおばさんといいここは余程名の知れた病院なのだろう。皆この男の仮初めの姿に騙されているのだろうけど、昨日の女性への診察を見るに腕だけは確かに思えた。そうじゃなかったら、わざわざ街から離れたこんな病院に来るはずがない。  そう思いながら気さくに話しかけてくる女の子と話していると、カンッという鈍い音が室内に響き渡る。私達は音がする方へ振り返ると、先生が何かの錠剤の箱を引き出しから取り出し、机に置いて女の子に差し出す。右手に握られているペンが、その先端を机の上に押し付けられている。どうやら無駄なよた話を避けるために、私達の注意を引き付けたかったようだ。 「ささ。もうこんな時間ですし、今日の診察は終了です。例の薬を切らしたとのことなので、また使って下さい。」 「ありがと先生。マジでいつも助かるよ。これが無いと怖くてできないからさー。」  そう言って女の子は机に置いてある何かの錠剤の箱を手に取り、代わりに財布から900円を取り出して机に置く。薬の代金なのだろうか? ここで強制労働させられて一日しか経っていないけど、こんなに安い薬は無かった気がする。一体何の薬なのだろうか? 「あぁ、そうだ。最近重いということですので、こちらもつけておきます。サンプルとして一個だけ使ってみて下さい。料金は頂きませんよ。」 「えぇータンポンなんて嫌だよ。私が言うのも何だけどナカに入れるのはなんか怖いし。これさえあれば生理痛も心配要らないしね。」 「そうですか…これを使えば経血処理も楽なのですが、残念です。」  先生が引き出しから出した『ソフトタンポン』と銘打たれてある箱には、膣奥深くに細長い尻尾がついたロケットが入っているイラストが添えられている。その姿がまるで精子に見えて、思わず鳥肌が立ってしまう。二人の話から察するに、このロケットみたいなのが血を吸ってくれるのだろうか。
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