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 駅がやたらと混んでいた。  声があちこち飛び交っている。怒号やら嘆きやら。  どうやら、電車がトラブルか何かで止まっているらしい。  勤め先に電話をかけ、そのことを伝えると、他に手段はないのかと訊かれ、ないと答えた。 「じゃあ遅延証明書持ってきて」  無機質な言葉だった。自動音声のアナウンスみたいですらあった。 「急いでね」  そう言って電話が向こうから切られる。  普段はやたらと口うるさく、すべての言葉が高圧的に聞こえるような上司だったが、電話口での声は、まるで別人のようだった。  関心がないのか。  そんな風に思った。私があの職場で働き始めてからそれなにりになる。だが、私は入社当時と同じように叱られ続けている。  職場の人間が私に向ける視線やかける言葉は、見下しや嘲笑を含む。だが、それは私の無能さゆえに向けられるものだから、受け入れるしかないのだろう。  やはり、関心がないのだ。いてもいなくても同じ人間が遅れて出社したところで、何も変わらないだろう。  虚しさと安堵が同時にわいてくる。安堵は、遅れていっても何も言われないという安心感からくるものだろう。こういう所も、私が無能たるゆえんなのかもしれない。     
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