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俺は体を起こした。そして、女の方に顔を向ける。
さっきまで殺意で溢れかえっていたのに、今はすがすがしい気持ちでいっぱいだった。
「ありがとう、叱ってくれて」
自然といい笑顔が作れた気がした。
「いっ、今さら何言ってんのよ」
女は頬をうっすらと赤く染めている。
「私が美人だってことは知ってるわよ」
俺の精神力は女の戯れ言も聞き流せるほど、この数時間で成長していた。
「じゃあ、またな」
俺は立ち上がり、カフェを出ようとした。
「ちょっと待ちなさいよ」
女が俺の肩をガシッと掴む。
「ここの支払い済ませてよね。私はこの後、彼氏とデートなのに付き合ってあげたんだから」
「まあお茶くらい奢るけど」
俺はレシートを見て、ギョッとした。
「このレシートお茶を飲んだにしてはものすごく高いんだけど」
「私、ケーキけっこう食べちゃったから」
女はあっけらかんと言う。そういえばこの女、ケーキを吸い込むように食べていたな。
「じゃっ、お会計よろしく! あんたにもいいことあるといいわね」
女はカフェを出ようとしたが、ピタリと止まり、振り返った。
「私、さっきはきついことも言ったけど、あんたは自信持っていいと思うわよ」
「えっ?」
「だって記念日を大切にしてくれるなんて、素敵じゃない。今度はそんなあんたの良さをわかってくれる女と付き合いなさいよ。女は日本中、いや世界中にいるんだから、きっと見つかるわよ」
女はニコッと笑い、去っていった。あれ? 一瞬、あの女が美人に見えたが気のせいか。
俺はおかしくなり、くすりと笑う。最低最悪の記念日になったが、今日は美人に出会えたからよしとしよう。
俺は歩き始める。明日に向かって。
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