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高科 萌那──萌那は内気な子どもだった。仲のよい友だちが居なかった。
友だちが居ないから誰とも喋らない。両親としか話さない日もあった。
誰とも喋らないから、遊び相手も居ない。だからよく家の小さな庭で虫を観察していた。
蠢く虫を踏み付ける。
痛みを与える。踏み躙る。命を奪う。
自分が生刹与奪を握っている──それは暗く昏い歪んだ喜び。
しかし萌那のそれはエスカレートすることはなかった。対象はあくまでも指先サイズの虫のみ。
それ以上の大きいもの──犬や猫など──は、歯向かわれて怖かった。一度試そうとして手酷く爪と牙を立てられた。
簡単に命を奪えるものだけでいい。他のものは想像の中だけで……妄想だけで満足しておこう。
それから萌那は妄想の世界を心行くまで堪能するようになった。
現実の世界は要らない。つまらない。こっちの世界なら、何もかもが思い通りになる。
自分が神になれる。
周りに合わせて面白くもない話題を聞いて、興味もない男子の噂話に付き合って──みんなに合わせて過ごすのは苦痛だ。
合わせられない自分をみんなは馬鹿にする。合わせられないというだけで見下してくる。悪意を包み込んでいるつもりが垂れ流しにして。
友だちなんて要らない。
「萌那ちゃんって好きな男の子居ないの?」
「え~まだ初恋してないの? ちょっと遅くない?」
「もしかして、アレもまだ? 萌那ちゃん、まだ大人になってないの?」
「やだ、じゃあウチラの話判んなかったりするの?」
「仲間外れにする気なんかないけどー、嫌な思いさせてたらゴメンねー」
────
──────……
──友だちなんか、要らない。
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