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その日、私は手芸クラブで使う毛糸を教室に忘れてしまいました。毛糸でポシェットを作る予定なのです。そのために、お母さんと一緒に選んだピンク色の毛糸です。
3時33分を過ぎていることをしっかり確認してから、渡り廊下に向かいました。廊下は走らないように、と注意されますが、ここだけは許してほしいです。
急いで渡り廊下を走り抜けて、そのまま教室まで走るのを止めませんでした。
誰もいない教室は、一瞬知らない学校に迷い込んでしまったみたいです。誰もいない、何の音もしない……もちろん廊下も。
運動場から聞こえてくる運動クラブの人たちの声が、どこか遠くに感じました。
急いで自分の机に駆け寄り、横のフックにかけてある袋を手に取ります。中にはピンクの毛糸と、かぎ針が入れてあります。たったそれだけのことが、ものすごく大変でした。それを持って、急いで引き返します。
急いで走っているうちに袋の中で物の位置が変わってしまったようで、かぎ針が袋から飛び出し、カシャン、と音を立てて落ちてしまいました。
しかも、それが落ちたのは渡り廊下。
一瞬、何も考えられませんでした。渡り廊下に射し込んでくる太陽の光に反射して、キラッと光ります。
急いで拾おうとしゃがみましたが、指先が震えてなかなか掴めず、カチャカチャと音が鳴りました。
大丈夫──まだ、大丈夫。光ったとしても、これは鏡ではないのだから。
まだ、渡り廊下の幽霊さんを呼び出す条件には当てはまらないはず。
だから、絶対、大丈夫。
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