狼/命狩る者

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 凍った大地に一歩踏み出す音が響き、ようやくニコルセンは己の失態を悟ると、蛇に睨まれた蛙のように動きを止めた。  元々距離には余裕がある。風下においてのこの一歩は、まだ気付かれる心配は薄いはずであった。 「うっ」  真っ先に反応したのは狼ではない。人間の方だ。  ニコルセンは思わず、カメラを落っことした。バンドがなければ、雪に埋まってしまっていた事だろう。  うっすらと目を開けた青年は、静かに上体を起こす。つられる様に、狼達も動き出した。  無数の瞳が彼を貫く。そこには、何の違いも無い。ただ、自然の距離を誤った者に対する警戒だけ。  青年を戦闘に、見事な列を作って、群れは近づいてい来る。  ニコルセンは動けなかった。動けば、死ぬ。直感していたのだ。  目と鼻の先。相手が狩りにくれば一瞬で決着がつく距離。  静かな雪景色の中、歩みを止めた狼達の唸り声が響き渡る。  ニコルセンにはもはや、運を天に任せるしかなかった。  ああ、どうか、通り過ぎてくれ。私を獲物や脅威として、相手が認識していませんように。 「何者だ」  彼の耳にぶつけられたのは、淡々として氷のような声。そして、それをそのまま現したような真っ黒く、鉄のような瞳。  黙っている選択肢は無かった。言わなければ、確実に死ぬ。そんな直感があった。     
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