ある日の図書館1日ツアー

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ある日の図書館1日ツアー

がしゃん あ、おはようございます! 今日もお早いですね! いつもの常連さんに声をかけ、門を開けていく。 私はこの図書館の司書、今年からなので一番の新参者だ。看板に「○○図書館」と書かれたこの図書館では、毎年一人だけ新しい司書を迎えるのである。 もう一度言おう。 「○○図書館」である。間違いではない。 私の国では図書館はなんとここだけ。なので、地図にははっきりと「図書館」とだけ書かれている。ここしかないからね。 さて、簡単にこの図書館について説明させていただきます。 初めて来られた方にも使うテンプレートなのであしからず。 我が国唯一の図書館である「○○図書館」ができたのは、今から丁度一世紀前のことです。 現在も各地に存在する博物館には、たくさんの歴史的価値を持つ物がたくさん保管されていますね。ですが皆さん。お気づきでしょうか? その「物」の中には本のような文書はひとつも含まれていないのです。 現存する最古の物語集も、短歌や和歌が連ねられた紙の束も、戦中国家機密とされた司令書も。博物館の中にはひとつだって置かれていません。 この図書館が作られるまで、そのような物たちはいっさい価値がないものとされていたのです。 信じられませんよね? ですが、一世紀前まではそうだったのです。 理由は簡単。それらが言葉を綴った物だからです。 人の感情等で書かれる文はかわります。例えそれが同じ一つの事柄であっても。 例えば、ここからここまでの本棚。ざっと500冊以上あります。これらは全て同じ「小学一年生で習うべき教養」についてです。 別に感情うんぬんということではありませんが… 違う人が書くことで、たった一つのことがこれだけの数の本になるんです。 はっきりいって、管理しつくせませんよね。 著者、書かれた時期、視点を当てた事柄などなど…それらの違いで読んだ人に与える印象も解釈も限りなく広がります。 まあ、人の気持ちも変わるように文も増えるということですね。 そう。人の気持ちは移ろうもの。 そんなもの信用できるはずがない。 それが一世紀前までの考えでした。 しかし、いつの頃からかその「文」たちを一つの芸術として楽しむ人々が増えてきました。 新しく日記や目を物語を書く人々の中で、ふとこんな疑問が浮かび上がったのです。 今までの、過去の人はどんなことを感じ思ったのか? それからです。各地に辛うじて遺されていた紙の束を、蔵書を、本とは呼べないようなノートたちを。できる限り人々はかき集め、中の文を復元し、再び読むことが出来るように管理を始めたのです。 そうです。それこそがこの国唯一の図書館「○○図書館」の始まりです。 先程も言ったように、本の数は限りなく増え続けます。まるで膨張し続ける宇宙のようですね。 ですから、当館も毎年1フロアごとに拡張されています。一年に一人だけ新しい司書を迎えるという理由がここにあります。 増えた分のフロアを新しい司書の担当として管理させるのです。 というわけで、現在私たちがいるこのフロアは私が担当させていただいております。 続きまして、一個上のフロアでございます。 つまり、私の一年上の先輩が担当しているフロアですね。 じゃじゃーん☆ どうでしょう!すごくありません? 先輩の専門は「魔法」。つまりはファンタジーです。 先輩は壁を全部夜空の色に塗り替えて、星をあしらったライトを付けたんです。 ファンタジー小説ではなく、その元になった伝説や魔法使いのモデル、魔術自体に焦点を絞った本が集められています。 魔法学校も開けそうですね。 さて、全部は回れませんがどんどんいきますよ! 次は「化石」 次は「機関車」 次は「政治」 次は「星座」 次は「海洋性ほ乳類」 次は「原子」 あ、飲食はこのエリアでお願いしますね。 次は「製菓」 次は「飛行機」 次は「エネルギー」 次は「文字」 次は「進化」 次は「深海生物」 次は「装飾」 実は… 当館には宿泊エリアというものもあるんです! 論文とか書かれる方や物書きの方はもちろん、毎日たくさんの方が利用なさっています。 遠慮しないで貴方も利用してくださいね? ただ、ちゃんとお家には帰るんですよ? はい、次! 次は「ミステリー」 次は「歴史文学」 次は… はっ。気づけばもうこんなこんな時間に… 宿泊申請されていない方はもう閉館時間です。 名残惜しいのですが、出口まで送らせていただきますね。 さて、たくさんの。 本当にたくさんの専門フロアを紹介させていただきましたが、これでもフロアに置かれていない本はまだまだたくさんあります。 いつか誰かに手にとって貰える日を、この図書館の地下で静かに静かに眠りについて待っているのです。 ボロボロになってしまった遥か昔の蔵書も、職人達の手によって復元されそこで一時の眠りにつきます。 新しく書かれた本も、決して自分が一番だと誇示することなく同じように隣に置かれ眠ります。 今更ですが、私の専門は「初心」です。 一年生の本はあっても二年生の本は置いていません。 いつでも、何かを始めたときの。 何かが始まったときの気持ちを大事にして欲しくて、これを選びました。 私のフロアのカウンターに置かれた、ケースに入ったあの一冊の本。 あれが私の一冊目の本です。 初めて自分で手にとって、夢中になって読んだ本。それがあれです。 内容は大したことではありません。でも、あの一冊がきっかけでもっと本が読みたい。書いてみたいと思うになったのです。 本たちの近くで生きていきたいと思うようになったのです。 そして、今の私がいます。 この図書館は今年で創立100年目です。 そして、私は100人目の司書であります。 かしゃん 司書となった人は、寿命を迎え魂…つまり幽霊となった後も「司書」の役目を果たさなくてはなりません。 さっき会った一番目の司書も、本当はとうの昔に亡くなられてはいるんです。 それでも、彼は笑顔でしたでしょう? 私もそんな司書でありたいです。 もう2度と図書館の外には出ることができませんが、ここを訪れる人たちに「私は100人目の司書だ」と胸を張って言い続けることが出来るように頑張ります。 私は永遠にこの図書館の司書の一員なのですから。 後悔なんてありません。 さて。 最後になりましたが、この図書館の名前。 「○○図書館」ですが、毎年かわります。 わかりましたか? ふふっ。そうなんですよ。 「○○」には年数が入るんです。 ただ、今年は一桁増えるということもあってこうなっちゃったんです。 見方によっては100でリセットされちゃったように思えますね。 ですが、私は思うんですよ。 1から始まり、00となり、来年は01となるでしょう。 リセットされることなく、この数字は続いていくのだなと。 00は通過点なんです。 来年は私も新人ではなく、後輩を迎えて通過点になるんです。 来年も、再来年も、ずっと、ずっと。 続いていくんです。 本日の御来館、誠にありがとうございます。 従業員一同を代表して「100人目の司書」が御案内させていただきました。 またお会いできるのを楽しみにお待ちしていますね。 貴方がいつか司書としてこの図書館へいらっしゃるのを。
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