22人が本棚に入れています
本棚に追加
男の胸に顔を乗せながら、女は寄り添っている。
男は女の髪の匂いをかぎながら、行為を思い出していた。始まりの優しいキスから果てるまでを反芻するように。
女の指が優しく男の胸をなぞる。
「私ばっかり責めちゃってゴメンね。いろいろしたかったでしょ?」
「それはそうなんですが……。あまりにも経験したことないことばかりで……。すいません、余裕がなかったです」
申し訳なさそうな女の声に、本音が口をついた。
女はいたずらっぽく微笑んだ。
「こういう所は初めて? まさか童貞じゃないよね?」
「童貞ではないんですけど、こういう所は初めてです」
女の顔がパッと明るくなった。
「そうなんだ! じゃあ、私が初体験の相手だね! おめでとう、風俗デヴュー!」
男は微妙に、困ったような声で、「何かその言い方も……」と答えるのが精一杯だった。
屈託ない女の顔を見る。始まる前は余裕がなく、今まじまじとやっと見ることができた。
女はかわいい部類には入るだろうが、何処にでもいそうな普通の顔立ちだ。ただし眼を除けば。眼の造りが変わっているとかではなく、何というか、魅入られる。何でも言うことを聞いてしまいそうに。それ以外は身体も細身で胸がそんなにあるわけでもない。ただ眼に魅入られる。我を失う程に。
「もうすぐ時間だからゆっくりできないけど、また来てね。ここに来るときは必ず私を指名して。約束よ。私はあなたの初めての女なんだからね」
女はやや長めのキスをすると、最後に一言付け加える。
「営業じゃないから。本当にあなたに逢いたいの……」
魅入られる。
男は思う。また逢いに来ると。
最初のコメントを投稿しよう!