求愛其の一/愛しき鷲は、優美なり

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この辺りでは一番規模の大きい高層ビル。 そこに設けられた中庭の、都会の喧騒から隔離された静寂な空間にあるベンチ。 それが彼女の昼休みの指定席。 生温い南風に吹かれ、さらさらと揺れる艶のある長い黒髪。 因みに今日の昼食のメニューはサンドイッチだ。今朝、6時に起きて作っていた。 紅く熟れた唇を開き、サンドイッチを一口齧って咀嚼する姿もまた美しい。 いつ見ても僕の奥さんは綺麗だ。 切れ長な目。そこから覗く硝子細工のような瞳。 真っ直ぐ線を描く鼻筋。 透き通る肌は陶器の如く滑らかだ。 そんな彼女の麗しい横顔を眺めるだけで、僕は当分満腹だ。 これだけで憂鬱な午後の仕事もまた頑張れる。 だから昼休みという彼女と過ごせる限られた時間だけは一分一秒たりとも無駄にしたくはない。 それくらい、僕は自分の妻に惚れて、溺れている。 生涯で唯一、この人だけを愛して……「あの。」 凛とした声が耳を突いた。 まだ途中のサンドイッチを握ったまま、彼女がこちらへと視線を移す。 彼女が齧った後のサンドイッチを自分の口に含んで間接キスをしたいという変態心を抑え、僕は自分が持っている最大級の笑みを浮かべた。 「どうしたの?」 真っ直ぐ、僕だけを見つめる彼女。 数秒の間の後に、怪訝そうな顔を見せた彼女はこう僕に告げた。 「どちら様ですか。」
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