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季節は真夏で、冷房の風とは無縁の中庭はそこそこに蒸し暑い。
それでも彼女は涼しげな表情だ。
汗一つかいていない。
「…それで、早く二つ目の質問答えて貰えますか。」
「二つ目の質問?」
見惚れ過ぎていた僕を現実へ引き摺るように、彼女は鋭い視線で僕を刺す。
「はい、視線の犯人は貴方ですか?そう尋ねましたよね。」
「ああ、それか。」
すっかり忘却の彼方にある事を察したのか、質問を再度放った彼女に僕は小さく頷いた。
「犯人なんて言い方よしてよ、それじゃあまるで僕が犯罪者みたいじゃない。」
「現状、大よそその肩書で間違いないかと思われますが。」
「あはは、冗談言わないで、鷲崎さんの言葉を借りて返答するなら鷲崎さんが感じているその視線の犯人とやらはきっと僕だよ。」
「ですよね。」
「愛しい人の事を知りたいと思うのは、人として当然の心理だと思わない?だから僕は鷲崎さんの事を知りたくて常に見ているんだよ。」
「家の中にいる時でも視線を感じるんですが…。」
「ああ、それは僕が鷲崎さんの家に隠しカメラを設置して全てを見ているからだよ。だから鷲崎さんが朝6時にサンドイッチを作った事も知っているし、なんなら6時半に洗濯を干した事も知ってるよ。」
全部、全部知っている。
一つ残らず、鷲崎さんの全てを僕は把握している。
愛しているから。僕の奥さんだから。知る権利があるし知る事で更に彼女への愛が深まる。
「なるほど。」
僕の発言に何かに合点がいったのか、拍手するように両手を合わせた彼女は納得したような顔をしていた。
「ただの気持ち悪いストーカーですね。」
彼女の声が、中庭に大きく響いた。
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