464人が本棚に入れています
本棚に追加
「その呼び方しないでって言ってるでしょ。」
「良いじゃん、学生の頃からいつも涼しい顔をしている蜜が顔を嫌そうに歪めるの見るの楽しいもん。」
「相変わらずの悪趣味だね、凪咲(なぎさ)」
「それ、そっくりそのまま返すよ。」
僕の肩に手を置いて目を細める男。
社員の女の子達が、王子様だと言って騒いでいたくらいには顔が整っている。
そんな男の名前は鵜藤 凪咲(うどう なぎさ)。
僕の高校時代からの親友だ。
「どういう意味、僕の何処が悪趣味なのさ。」
「こういう所。自覚ない辺りかなり深刻だと思うけど。」
コンコン
指先でパソコンの画面を軽く叩いた凪咲。
その指が触れているのは、笑っている鷲崎さんの写真。
「よしてよ、画面越しでも凪咲が触れると僕の鷲崎さんが穢れる。」
「いやいや蜜のじゃないでしょ。本格的にストーカー特有の思考になってきてるよね。」
「いずれは僕の物になるの。」
「顔はすこぶる美形なのに、犯罪まがいの事する変態だから蜜は面白いよ。」
「犯罪まがい?何処が?」
「…あらら、これはかなり重症だね。」
苦笑して両手を挙げながら首を右へ左へ振る凪咲は、完全に呆れた様子。
それが全然腑に落ちない。
「ていうか全然仕事進んでないじゃん。しっかりしてよ副社長。」
「こんな無駄に広い個室で仕事捗る訳がないじゃないか。僕だって鷲崎さんが常に視界に入る部署にさえ異動になれば仕事こなせる自信くらいあるよ。」
「それこそ鷲崎さんに夢中で仕事手につかなさそうだけどね。」
「……。」
「まぁ、そんな蜜に朗報ですよ。これ、秋の新作のデザイン案の最終決定版、デザイン部に持って行って欲しいんだってさ、社長が。」
真っ白の封筒をひらひらと宙で泳がせる凪咲の言葉に、瞬時に顔を上げた僕。
「デザイン部?行っても良いの?」
「うん、さっき偶然会食に行く社長と会ったんだよ、その時に今回はどうしても行けないから代わりに息子に行かせて欲しいっていう伝言を預かった。」
「…それを早く言ってよ、すぐに行かないと。」
「だと思った、僕も面白そうだから一緒に行く。」
凪咲の手から封筒を引き抜いて、大事に抱えた僕の後に続いた男はやっぱり悪戯っ子のような顔をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!