リクノコ島奇談

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 トーマスは、体をじたばたとさせながらファンの顔に必死に拳を伸ばす。下から放つ拳は体重が乗らず、逆に上からコントロールされやすいので、あっさり逆手にとられ、頭上から拳を降りおろされてしまう。 目を瞑りながら、左右に首を振り、ファンの拳をよけようとするが、振り下ろされて来る拳にことごとく顔面や頬をぶたれ、トーマスの顔は次第に赤く腫れ上がる。  「どうした? やられてばかりじゃないか。少しはやり返してみろよ」  「畜生......」  トーマスは鼻血を垂らしながら、キリリと奥歯を噛みしめる。  「やめなさいよ、あんた達! 一人を寄ってたかって虐めるなんて卑怯じゃない。それでも男?」  たまらずアメリアがファンに怒鳴りつける。  ローマンド本土の教育は、スパルタ式が当たり前でコロシアムという娯楽が、殺し合いを助長し、大人たちはそれに夢中になり、ローマンドの政治には無関心なものが多い。アメリアは、そうした政治にも疎いが多勢に無勢で一人を虐める風潮を見て見ぬふりは出来なかった。  「女が出る幕じゃないだろアメリア! これは男と男の決闘だ」  「決闘? わたしにはただ虐めてるようにしか見えないけれど」  「虐めだって? 決闘ならローマンドの大人みんなやってるよ。これのどこが悪いんだよ。言ってみろよ」  
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