リクノコ島奇談

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 「トーマスはここを卒業したらどんな仕事をしたいの?」  トーマスの隣で体を擦るチャールズが不意に訊ねた。 学歴のある生徒なら、劇作家や楽士に天文学者になれるが、ローマンド本土では学歴が低い生徒はみな奴隷として働かなくてはならない。奴隷市場で売りに出され、買い手がつかなければ、奴隷仲介人が海賊などに売り飛ばし、戦争や犯罪の頭数にされてしまう。 運よく買い手がついたとしても、公衆の面前でワイバーンやオーガと戦う剣闘士奴隷として働かなくてはならない。 どこの親もそんな子供の末路を避けるべく、良い学校に行かせようとするが、ローマンドでは子供の人口が少ないのが現状だ。  「劇作家になって話を書きたいんだ。戦いは嫌いだよ」  トーマスは頭からお湯をざぶんとかけながら、呟くようにそう言った。風呂に入れば裸の付き合いになるため、リクノコ島学校では口にしない本音がこぼれた。  「見ていたらよく分かるよ。きみのこと助けてあげられなくて、ごめん」  チャールズは、ウェアラットとの戦闘やファンとの喧嘩でアザだらけになったトーマスの体を見て静かに謝罪した。  「良いんだ。チャールズは?」トーマスは不意に訊ね返してみた。
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