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それは、二週間も振り続いた長雨がようやっと上がり、雲一つない青々とした快晴が頭上に広がる6月、ある日のこと。
こんなに気持ちのよい日曜日は久し振りだと、縁側から鼻唄混じりに空を仰ぎ見る中年女性、美智子の黒く長い髪を、爽やかな風がそよそよと揺らしている。
五十目前の割には幼い印象を受ける横顔。
所謂童顔と言われる彼女のこの日の装いは、純白のブラウスと、クリーム色の生地に、真っ赤なバラが複数箇所にわたりデザインされたロングスカート。
五年程前に、夫である雅史がプレゼントしてくれたこのスカートは、今でも美智子のお気に入りで、週に二度は必ずといってコーディネートに取り入れるほどに愛着ある物だった。
猫の額ほどの庭に植えられたポプラの木も、雅史が二人の結婚十周年を祝い業者に発注してくれたもの。
『君さえいれば僕は幸せだよ』
訳あって、子供に恵まれる事が出来なかったこの夫婦にとって、月日を重ねる毎に成長してゆくこの木は、心の拠り所でもあった。
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