雨上がりに咲く赤い花

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 ざわざわとはしゃぎ声を上げる葉音に、うっとりと目を瞑る美智子の耳に、リビングの奥、ピーピーとしつこく鳴る電子音が届いた。  専業主婦として、現実に戻される瞬間。  洗濯機の洗い終わりの合図に、美智子はハアッと溜め息を着いた後、窓は開け放したままに踵を返した。  リビングを横切り、玄関へと続く廊下の中央付近で右手に曲がる。  脱衣場のうっすらとオレンジがかった照明の下、洗濯機内からサラリーマンである雅史のワイシャツをカゴに取り込むと、直ぐに別の衣服を中に入れ、スタートボタンを押した。  この作業は、本日これで三回目となる。  どちらかといえば几帳面かつ潔癖な性格の持ち主の美智子は、下着、くつした、上着に、ズボン類等をいっぺんに纏めて洗うことを嫌っていた。  水道代もバカにならないとわかっていながらも、ヨゴレ物を綺麗に洗うという作業に、手抜きをするという行為には、どうしても気が引けてしまう。 『君の好きなようにしてくれていいんだよ』  そう言って、屈託の無い笑顔を向けてくれたいつかの雅史の姿を思い出しながら、カゴを抱える美智子はまた縁側に向かった。
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