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 音楽の先生は、新蔵諒太ってメタボリックな先生だ。ニイクラではなく、シンクラだ。シンクロではない。肩が痛いらしくピアノが弾けないそうだ。  今日はベートーベンの『月光』を聴かせてくれる予定だった。仕方なく、ラジカセから流れる『月光』を聞いた。 「先生、肩どうかしたんですか?」  黒田も同じ授業だったんだな?一番前の席だ  受講生は15人だ。  ちなみに1年生は全部で50人だ。少ない。  中学のときは1クラス40人で、8組もあった。 「頭の悪いデブが降りるときにボタン押しやがった」 「それって俺のこと?」  黒田が泣きそうになる。 「何でそうなんだよ」  僕は苦笑した。 「イヤイヤ、列車から降りようとしたらどこかのデブがボタンの《閉》ボタンを押しやがった」 「そりゃあ痛いでしょ?」  僕は、『月光』に聞き惚れていた。 「黒田くんの後ろの奴、ありがとう」 「とんでもありません」 「君は、黒田くんの後ろの奴って名前なのか?」  うるせー!デブ。 「ベートーベンって死後に認められるようになったんですよね?」  僕のとなりの絵里が言った。 「そんなの小学生だって知ってるよ」 「坂本、ゾンビ殺したくらいでいい気になるなよ?それに、年上には敬語を使いなよ?」  絵里に坂本って言われてムカついた。恋人や親だったらいいけど、大して親しくないだろ? 「あぁ、腹が痛い」  何としてでも武器を探さないとな?トイレを行く演技をした。腹を押さえて歯軋りするみたいに口を動かす。 「ウンコか?」  絵里が美人な顔して汚いことを平然と言った。 「えっ、ええ」 「授業中に何をやってるの?」 「宇喜多さん、行かせてあげてよ?漏らされても困るから」 『きたねーんだよ、テメェはトイレ係だ』  棚倉の幻聴が聞こえた。  中3のときの数学の時間だった。苦手ってこともあり、腹が痛くなることが多かった。ギュルギュル鳴ったので、先生に『トイレに行かせてくれ』って言ったら、トイレ係にされた。  技術の時間、先生が目の前にいるのに棚倉はハンダゴテで僕の腕に押し当ててきた。  棚倉とは小学校の頃は仲がよかった。  本屋に遊びに行ったり、鬼ごっこしたり。 「行ってきなよ?」  絵里が許してくれた。  絵里と新蔵は同年代だ。同じ福島出身なら同級生ってことも有り得る。 「すみません、すぐに戻ってきます」  何とか授業を脱け出した。  どこにあるのかなぁ?
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