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声を辿ると2階のさとしの部屋に続いていた。
彰久はドアの外で立ち止まり看板を見た。
「あのオヤジ…また変なもん作ったな。なーにがお悩み相談室だよ、あんたが来たからこっちの悩みが増えたんだろ」
彰久はドアノブをゆーっくりと回すと仕切られたカーテンの向こうに2つの影が。
「ほれ、そこだよ、さとし! ハッキリ態度を表さないから彼女は近づいてこられないんだ。もっと素直に〝好意〟を言葉や態度で示せ」
彰久は仕切られたカーテンをガッと開けた。
「オヤジ、いつまで起きてんだ。こんな時間まで。さとし、お前もこんなのいいからさっさと寝ろ」
「おい、そこのサラリーマン。相談会の最中だ。外の看板に営業中って出てただろ。中にはいるときはノックくらいしないか」
「何が営業だ。早く寝ないんなら家に帰ってばあちゃんの相談会でもやるんだな」
父は捨てゼリフを吐いて下へ降りていった。
「じゃ、さとし。この続きはまた今度な。寝るから電気消すぞ。おやすみ」
電気を暗くすると5分も経たないうちに徳三郎のイビキが聞こえ始めた。さとしは自分側にある寝明かりをつけ、携帯を充電器にさして布団に入った。
ある日の午後、突然佐知子がやってきた。平日なのでみんなは仕事で出掛けていて、家には町子しかいなかった。
ピンポーン!
「はい。あら、おばあちゃん。ご無沙汰してます。どうぞ」
町子は部屋に招き入れ、ソファへと案内した。
「久しぶりに来たわ、何年振りかしらね」
佐知子は部屋を見渡しながら懐かしそうにしていた。
「さとしも理子もあっという間に大人になったわね。結婚はまだしそうにないの?」
「そうですねー、仕事が楽しくてそういう感じではないみたいですね」
お茶菓子を出し町子がソファに座るとすぐさま
「あのー、おばあちゃん。そろそろおじいちゃんを家に戻してあげたらどうです? 最初の2~3日はお元気でしたけど、今は物思いにふけるようになって」
町子はかなり脚色して佐知子に告げた。
「あの人はよく気がつく人でね、気遣いが出来る人なの。だから知り合った人に道端の花をちょっと摘んであげたり、暑い日には自販機で飲み物買ってその人と一緒に飲んだりね、相手のことをよく見てるの」
佐知子は徳三郎の良さを語った。
「わかってるの、今回もそうだろうって。だけどね、だけどね、偶然見かけたのよ、デレデレしてだらしない顔してる誰かさんを」
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