ぼくを救ってくれた人

1/6
前へ
/6ページ
次へ

ぼくを救ってくれた人

あの日からぼくは浅くしか眠ることが出来なくなった ぼくの父は某大手企業の技術者で優秀な人だった 母は薬剤師 ぼくは、はた目には何不自由なく育ててもらったように見えただろう だが決定的な不幸があった 父は母とぼくに愛情を持たない人だった たまに公園にキャッチボールに行くと、まだ小さいぼくは父の思うようには出来ない 子どもながらに父に褒めてもらいたいと一生懸命にやるが出来なかった しばらくすると父はこんなに出来ないなら帰るぞと言って一人で帰ってしまうような人だった 悲しい思い 寂しい思い 友達のうちはお父さんに抱っこされたり、ボール投げをいつまでもやってもらっていたりしているのに そうした生活のなかでぼくが中学3年になったある日母が癌になった 余命は3年と宣告された それでも父は変わることなく冷たい人だった 病院に付き添う事などもなくバナナでも食べさせておけばいいと言う人だった しばらくして、両親は離婚することになった 母の心中がどんなものなんだろうと思うと心底ぼくは母の事が不憫でならなかった 父がマンションといくらかの預金を残し出ていったのはそれから間もなくだった 母は癌サバイバーとなっても表向きは元気に仕事をしていた     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加