奇妙なオファー

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「ではどうやって?」  病院に行かないということは、、、  たぶん方法は一つしかないような気がしてきた。  でも私から言い出すのは、かなり破廉恥な気がした。 「迷惑かもしれませんが、直接お願いします」  どこかのAVビデオにあるような夢のような設定だったが、私の立場上、素直に喜ぶ訳にはいかなかった。  「どこでおこないますか」 笑い飛ばすという選択もあったはずだが、あくまで医学的な顔で聞く。 「外で顔を合わせるのは困りますのでここでお願いします」 「ここは学習塾ですよ?」  ここにはベッドもシャワーも無いということを言いたかったのだがたぶん伝わってると思った。  彼女は軽く微笑むと「大丈夫です。シャワーがなくても」と言った。 「本当に旦那さんは反対ではないんですよね? 私のことを知ってるんですよね」  特に旦那さんが、私を知っているのか? 知らないのか? は特に確認したかった。 「夫は知りません。大丈夫です。あなたのことを知りたくないんです。夫が望んでいるのは、私達お互いが会ったことがない知らない人です。もちろん子供ができた後は、私もあなたにお会いしませんし、あなたにも私のことを全て忘れてほしいと思っています」 「その理由で謝礼が高額なんですね?」 「そうです。秘密厳守としてのお礼金も含まれています。あの、すみませんもう一度確認しますけど血液型はO型で間違いないですよね」  彼女が以前、授業の終わりに突然血液型を聞いてきたのを思い出した。 「はいO型です。私の血液型は、ご主人と同じ血液型なんですね?」 「はいそうです。DNA鑑定になってしまえば、私達夫婦の子供ではないのがばれてしまいますけど、私達がそういう風にならないように子供をしっかり育てたいと思います」  そう言うと彼女は静かになり私の返事を目で促した。  雰囲気で彼女が返事を待っているのは分かっていたが即時に返答するのを避けたかった。 ただ恥ずかしながら、頭の中に思い浮かぶ質問は、彼女とのセックスのやり方のことばかりだった。  そういう理由で、どうやってセックスを始めればいいのか?  全く想像できないし聞くことも難しい。  黙りこんでいるとまた彼女が話し始めた。 「来週からお願いします。お金は来週、現金で500万円お支払いします。私達を助けてください」  彼女は頭をテーブルに押し付けるようにお辞儀した。 「頭をあげてください」と言っても彼女はなかなか頭を上げない。  もう少しじっくり考えて決断したかったが、目の前の綺麗な女性と1000万円の謝礼が頭の中を駆け巡った後、30秒後には、この人助けを引き受けることに決めた。 「分かりました。本当に私でよろしければお引き受けします」と言った瞬間、彼女の顔が緊張から笑顔に変わった。 「ありがとうございます。本当にありがとうございます」  彼女は繰り返し礼を言うと私の手を自然な感じで両手で握り締めた。細くてやわらかい指が手の甲を包み体温が伝わり気持ちよかった。そのうえ、私の手を彼女の胸元まで引きこもうとするので、彼女の柔らかくて長い髪の毛が、私の手を包み込んだ。 いささか、彼女の態度も大胆になってきたような気がした。  ひょっとして? さっそく今からということなのだろうか?   自分なりに自然な感じで手を握り返し彼女の目を見つめる。 「じゃあ、来週よろしくお願いします」と彼女は立ち上がった。  私は呆気にとられて「はい」と言うと、少し遅れて立ち上がった。  少しだけ股間が突っ張っていたので少し前かがみになった。  そんな惨めな格好の私に、彼女は気付く様子もなく部屋をでると、玄関のドアに向かった。  「ありがとうございました」と私がいつものように声をかけると、彼女はピクリと立ち止まり振り返った。 「あの、来週はどういう服装で来たらいいですか?」目線をやや逸らしながら聞いてきた。質問自体が意表をつくものだった。 「いや、いやなんでも、何でも大丈夫です」 焦ってそうとしか答えることができなかった。  彼女は首をかしげるようにして微笑むとドアをカチャンと閉めてでていった。そのドアを呆然と見つめ続ける自分がいた。そして、先程までに起こった出来事を思い返してみる。  断れば良かったんではないか、という考えを一つずつ打ち消していかなければならなかった。ある意味、これはAYAに続く、2回目の妻への裏切りである。  でも、自分は尾上さんを愛していない! これは純粋な人助けである。  まだ軌道に乗ったばかりの塾なので、そんなに事業資金の余裕が無いところに1000万円の謝礼金がもらえる。最近欲しがっていた新しい車に買い換えることもできるし、家族旅行もできる。愛がないセックスをして精子を提供するだけの行為をすれば良いだけのことである。  前回の20歳の子とは違っていてこれは浮気ではない。  これに関してはもし妻に知れたとしても許してくれるだろう。  臆病な私は、ばれた場合を想定して何度も確認した。
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