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尾上章子という女
パソコンの画面をのぞくとこの前問い合わせされた尾上章子から返信が来ていた。
前のメールでお子様の受講なのか・希望の科目があるのかメールで聞いたのだが、それには全く答えられずに「本日14時に参ります」とだけ書かれてある。このようなお客さんには慣れているので、なんてマイペースな人なんだろうか? とは思わなかった。
今日14時には何のクラスも入ってないことは分かっていたので予約は簡単に取れるのだが、当日にメールして3時間後にこちらの都合も聞かずに予約される人は珍しかった。
経験上この方は塾に入らないと思った。結果が見えた感じがして、自分のテンションがさがっていくのが分かった。
このタイプの方は塾に万が一入ったとしてもなんかの理由でややこしくなる。
そう思いながら、もう来ると決めてるお客様のために「お待ちしています」と返信した。
中学生に教える数学の問題をあらかじめ解いていると、約束の時間が迫ってきた。
先ほどのメールの返信と一緒に地図のアドレスをリンクで貼り付けていたのだが、たぶんメールさえも見ていないのだろう。
14時からだんだん時間がすぎていく、部屋と塾の入り口の廊下を行ったり来たりする。 遅れるとの連絡もない。普段ならもっとイライラするのだが今回は想定内だった。
14時から20数分たったころドアが激しく叩かれると、ひょっこりと長い髪の女の人が顔をのぞかせた。
びっくりした。なぜなら想定外の容姿だったからだ。
その人は私の姿を見つけると、ニコリと微笑み遅れたことを丁寧に詫びた。
とても三十代には見えない。女性の整った綺麗さに、やや圧倒されながらとりあえず入ってすぐの受付の部屋に入ってもらい、いつものようにアンケート用紙の記入をお願いした。彼女はフンフンと可愛く頷くと大きな文字で尾上章子と名前を書き込み初対面とは思えないフレンドリーな目線を私に向けた。
まっすぐに目を見てくる人は嫌いではなかったが,瞳の中にすいこまれそうだった。
私は彼女の前に移動してテーブルの中に入り込んでいる大きな椅子を引き出しゆっくりと座った。
フォームに集中して記入していることをいいことに、普段とは違った美しい訪問者をテーブルから見える範囲で舐めるように凝視する。普段はこのようなことはしない。なぜなら中高校生は私には幼すぎるし、その両親達は私にとってはだいたい年上だし、そもそも私は今までに人の女に手をだそうと思ったことがない。
清潔感のある高そうなシャツのボタンの2番目までは開いている。中が見えそうな気がするが、もちろん身を乗り出せる勇気もスケベ心もなかった。
「尾上(おがみ)さんでよろしいいですか?」
名前を確認すると彼女は白い歯を見せて返事した。
一言で言うと愛嬌がいいということなのだが、なんかそれ以上の物も感じた。彼女の裏のない暖かい視線が絡みつくようだった。
「本日はお一人のようですが?」
何かさぐるように聞いてみた。
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