アリバイ

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アリバイ

 12月になった。今日は退院の日だった。  私はなんとか命をとりとめたが、鼻やあばらの骨折や2ヵ所の内臓の損傷等の為、緊急手術の後2ヵ月ちかく入院することになった。  最初の数週間は全身が腫れあがって身動きが取れなかったが、最後の週はリハビリを積極的に行えるようになった。幸い大きい後遺症というのはなさそうだ。まだ松葉杖をつかねばいけないが、一人で着替え等の身の回りのことはできるようになった。  妻は何も私に尋ねることもなく一生懸命に私を看護してくれた。息子にはまだ会わせてもらってないが、たぶん親に預けているのだろう、病院には連れてこなかった。  妻は基本的に話しかけてこなくて、私達は無口だった。  事件前の私の態度をあっさりと謝れるほど、私は図々しくなかったし、素直でもなかった。いろいろと聞き返されるのもショックだった。  むしろ、私は妻があの事件に関して何も聞いてくれないことに感謝していた。  そして、わざわざ私を病院の個室に入れて、病室の週刊誌やテレビから、私を遠ざけてくれた。  正直なところ自分達の事件がどのくらい騒がれているのかも分からなかった。  とにかく事件に巻き込まれ、精神的にも気が狂いそうになった私に対する妻の思いやりなのだろう。感謝するしかなかった。   週刊誌は読まなかったが、時々聞き込みに来る、頭の禿げた冴えなさそうな親切なだけの刑事さんに、だいたいの事件の流れを聞いた。  章子は企業経営者で資産家の自分の夫の殺害を計画した。それは私と自分の夫に殺し合いをさせ、弱った方にとどめを刺すという恐ろしい計画だった。  私に子供を作るためと近づき、500万円という大金を渡して安心させ、情事の写真や証拠を撮影して証拠をたくわえて、その計画の時が来たときに、暴行され脅されていると夫に打ち明け踏み込ませた。とようやく被害者とも言っていいと私は理解している。  でも、私がなぜ殺人罪でもなく、容疑者でもなく、拘置所でもなく、刑務所でもないのかと言うと、それは、ただ私が怪我をしているからと言う訳だけでない。  それは、私が自分に有利な証言をしたからだ。
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