若者と老人

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 思い返せば、学校用からこの就活用の鞄へ荷物を入れ替える際、大分と慌てていた。自分に負けて予定より寝過ごしてしまったり、ブラウスの目立つところに皺が寄っていたり、髪型の崩れを過剰に気にしたり。さあ出掛けようと肩に鞄を引っ掛けたところでやっと、アンバランスに気が付いたからである。  結局自転車を全力で漕ぐ羽目になるし、当然髪も乱れるしで散々だった。今、私の耳後ろにはヘアピンが軍隊のように整列している。神経質にひっつめた髪の内側も、快適とは程遠いスチーム状態だった。 「どうしよ~…」  アルバイトは13時半から。自宅まで自転車で20分、さらにそこから10分。徒歩で間に合う時間ではない。こいつさえいなければ。愛車を拘束する金具に、恨めしい眼射しを向ける。パンク補修したタイヤを締め付ける、錆びたコの字型。「こいつを返して欲しければ100円寄越せ」と下卑た笑みを返してきた。そのやっすい身代金すら、私には支払う能力が無い。もう泣きそうだ。変わらずがっちりと首根っこを掴みながら「なんかごめん」と哀れみに逸らされた視線。
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