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「俺、小瀬が……好きだ」
彼こと樫原涼が口にした、もっとも大きな魔法の言葉。
私、小瀬伊織はキョトンとし、しばらくして笑い出した。だって、あまりにも出来の悪い冗談だったから。
そう決めつけなければ危険だって、心が警告を発していたから。
相手は一緒に笑ってくれなかった。ひどく傷ついた表情で、ただじっとこちらを見つめた。
私は、それ以上笑い続けることができなかった。
決して本気にしてはいけない言葉なのに。撥ねつけたつもりだったのに。
胸の内で魔法がじわじわ効いてくる。もしかしたら本当のことなのかもしれない、って。だとしたら……。
私は怖くなって、耐えきれず彼の前から逃げ出した。
* * *
樫原涼は、ファンタジーの世界なら『魔法使い』だろう。
派手に着飾ったり、外車に乗ったりしなくても、不思議な魅力で常に人目を惹く。その場に現れれば空気を変える。
本当の魔法使いとは、術を行使する必要などないらしい。相手を吸い込む眼差しで、ささいな仕草ひとつで、周りを動かす。
彼を囲む人たちは、契約を交わした使い魔のように、見返りがなくても従った。
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