152人が本棚に入れています
本棚に追加
周囲の人間を操りながらも、彼自身は淡々としている。自らの影響力を気に留めていない。
友人らの輪にいると、かすかに笑みを浮かべることもあるが、たいてい無表情に物事を眺めていた。
* * *
コンパというものに、私が参加させられたとき、彼はいちばん遠い席に座っていた。
物静かな魔法使いが、この日はほんのわずか、不機嫌そうに見えた。
私はといえば、幹事が人数合わせに四苦八苦して、たまたまそこにいたために声を掛けられた。断る間も与えられず、この場の一員になっていた。
揃ったメンバーは、男女ともにレベルが高い。
私は、自分が傍観者であることをわきまえていた。ここまで差があると、妬む気持ちさえ生まれない。
二次会がクラブだというので、私は幹事の人に断って居酒屋を後にした。
空しいことをしたと気持ちが沈んだけれど、未知の世界を覗いたのはたしかだ。貴重な体験だった、と考えなおす。
近くにある上質なパン屋さんに入った。
こういう日はささやかな贅沢をしたっていい。好みのパンを選んで買い求めると、やりきれない感情も凪いだ。
最初のコメントを投稿しよう!