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私は近くのコンビニの洗面所でハンカチを濡らして、その場に戻った。
差し出すと、まるで魔力を失ったような魔法使いは、ハンカチをただじっと見つめた。
やがて受け取り、目元のあたりを押さえる。先ほどよりは落ち着いた様子だ。
彼は、弱った姿をさらしたことを警戒しているみたいだった。
なんだか可笑しい。私がこの人を脅かす存在になるはずがないのに。滑稽というより、可哀想だった。
「放っておいてほしい?」
魔法使いが驚いた顔をし、わずかにうなずいた。
「分かった」
私は踵を返して、人の行き交う通りに出た。
すぐに追いかけてくる足音がした。振り返ると、彼が戸惑った表情で立っている。
ハンカチを示す。
「これ……」
「必要なくなったら捨てて」
「そういうわけには」
言いかけて、彼は一瞬フラッとした。かろうじて足を踏みしめる。ふたたびハンカチを目元にあて、深い息をついた。
私は近付かないまま苦笑した。
「急に動くから」
彼は力なく視線をよそに向けた。
「……情けね」
「駅のほうに公園があるから、ベンチで横になったら? 休めば楽になるよ」
「……ああ」
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