152人が本棚に入れています
本棚に追加
方向が一緒なので、連れ立って歩くことになってしまった。公園のそばで別れようとしたら、相手に腕をつかまれた。
「ここまで来たら、回復するまで見届けろ」
返事も待たずに、憩いの敷地内へ入っていく。
普段は一匹狼のようなのに、今は、はぐれわんこになったみたいだ。私は乗りかかった舟だと諦めて、もうすこし様子を窺うことにした。
ベンチは長身の彼が横たわると、それだけで占められた。私がハンカチを濡らして戻ってきたとき、相手が身を起こして場所を空けた。
「いいよ、寝てて」
「座っとけ」
こちらをじろっと睨みつける。わがままな仰せには従うしかないらしい。
私は自販機で購入した清涼飲料水を渡した。彼が半分ぐらい喉に流し込んで、ホッとした息を漏らした。
沈黙が流れる。
居酒屋でいちばん遠かった存在と、一緒にベンチに座っているなんて。成り行きの奇妙さに驚かずにいられない。
超越然とした魔法使いでも、こんな日があるのかもしれない。そういうときに侍るのは、盲目的な崇拝者より、無知な村娘のほうが気楽でいい。
彼はハンカチを額に乗せて、ベンチに深くもたれかかった。私は尋ねる。
最初のコメントを投稿しよう!