152人が本棚に入れています
本棚に追加
「やっぱり横になる?」
「気ぃ遣うな」
「そっちこそ」
言い返してやると、相手は不機嫌そうな目を向けた。私は肩をすくめて指摘した。
「ここで寝てたからって、あなたのなにが損なわれるっていうの?」
「……たしかに」
「布団は用意できないけど、枕なら?」
「提供してもらおうか」
傲慢な態度。たぶん、わざとだ。でも、こちらの提案に乗ろうというのだから、気まぐれでも構わない。
私が深く腰かけなおすと、彼は遠慮することなく、こちらの膝に頭を乗せた。
自分から言い出したくせして、不可解な事態に困惑する。相手はいろいろ投げやりになっているのかもしれない。
不意に、懐かしい感覚がよみがえる。つい彼の頭を撫でた。
魔法使いの身体がビクッと強張る。私は我に返って手を引いた。
「……ごめんなさい。実家の犬がよく膝の上で寝てたから、クセで。馴れ馴れしくするつもりはなかったの」
相手は気まずそうに目を逸らしたが、起き上がりはしなかった。
しばらくの沈黙のあと、彼の口からかすかな声が漏れた。
「べつに嫌じゃ……ない」
私はそれならと頭に手のひらを乗せた。
最初のコメントを投稿しよう!