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「……はな、して!」
茜が悲鳴に近い声で叫ぶと同時に、僕の頬に鈍い感触が叩きこまれた。
それは茜の拳だった。茜の必死の抵抗で僕はあっけなく吹き飛び、そのまま校舎の壁に叩きつけられる。
女に殴られるのは慣れていた。だが、この瞬間が一番痛かったことを覚えている。
「いい加減にして……私は、あなたなんか……」
茜の言葉を最後まで聞き取れなかった。
だが、とてつもなく心に痛みを伴った事を覚えている。きっと、茜は僕を否定したのだと。
騒ぎを聞きつけ、駆けつけた野次馬たちに拘束され、僕は無理矢理に茜から引き離される。
その最中、僕は無意識のうちに涙を流していた。野次馬たちが僕を口汚く罵ろうが、僕にとっては取るに足らない些細な事だ。
けれど、拘束される僕を見る茜の目。不快感を露にし、怯えきった彼女の目と僕の目が合った時、僕は耐えがたい苦痛に苛まれた。
不本意とはいえ、彼女を傷付けてしまった。その責任を一身に感じ、僕は自身に対する怒りとで涙を流したのだ。
「ごめん、ごめんね……茜。けれど、きっと君も分かってくれるはずだ。君は、僕と……」
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