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「やっとこの日が来るのを待っていた。今日は一発で決める」
緩やかな気候の晴れた昼過ぎの午後、中川聡は喫茶店でたっぷり注ぎ込まれたコーヒーカップの横に置き、ぎっしり自分で書いたノートとメモ紙をを見つめている。
握り拳を作っている。
手のひらに汗がうっすら滲む。
窓側のテラスから遠くに真っ青な空が見え、太陽の黄色強い日差しが中川の目に飛び込んでくる。
時計を見る今はゆっくり昼間の2時を針が指している。
梅澤智子はもうすぐここに来る。梅澤とはまだ話をしたのは2回ぐらいしかない。
中川は最近、仕事が手につかないぐらい智子のことを気になって仕方がなかった。智子のことを知りたい。もっともっと強く知りたいのだ。
中川は智子が来た後のことを頭の中でシミュレーションしてみた。
智子が来たら、お店を出て、すぐ近くにある尾上公園を二人で歩く。そこに見晴らしが良い丘があるのでそこで考えてきた決めセリフ言い、ちょうど良いタイミングでこれを差し出すのだ。
彼女の思考を確かめるのだ。
中川はポケットの中、手を突っ込み膨らんだ物をググっと力強く握りしめた。
隣のテーブルを見ると同じコーヒーを飲んでいる短髪に目が穏やかな20代ぐらいの男が入り口をキョロキョロしている。
「なんだこいつは、落ち着きがないな」
中川は努めて気にせず、入り口のドアに顔を向けた。
入り口の自動ドアが開くと満面の笑みの女性が中川の眼孔の中に入ってきた。
梅澤 智子だ。
遠くからでも彼女の姿はわかる。
黒い長い髪に白のブラウス、黒いズボン。
ヒールの低い黒い靴を履いている。
人混みの中にいても目立つ。
オーラを感じるのだ。
智子は中川を見つけると早歩きで中川に近づいてきた。
「ごめんね。待った?」
中川は笑顔で智子の顔を見て柱の時計を見た。
「いや、俺もさっき来たところ。時間も2時ちょうど」
「良かった。聡から連絡をくれるの待っていたんだからね。今日はどこ行こうか」
「ちょっと近くに公園があるからそこを散歩しようと思うんだ。行こう」
「もしかしたら尾上公園?」
「知っているの」
「有名じゃない」
「行こう」
中川と梅澤は喫茶店を出た。
喫茶店を出る時に向こうから目を見張るような綺麗な女性とすれ違った。
急いでいるのか中川はぶつかりそうになったが上手くかわした。その女性は真っ直ぐ先ほどの隣のテーブルにいた挙動不審の男に近づいていっていた。
「大丈夫?ぶつからなかった」
「大丈夫。行こう」
公園に向かった。
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