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「10年前にお前には別れた彼女がいたよね」
中川は少し間を置いて話した。
「な、なんだ急に」
中川は急いで頭を素早く回転させるかのように思い出そうとした。
「それがどうしたのか」
智子の力がこめられる。こんなに力があるのか。
「早く思い出すのだ」
二十歳ぐらいの時に付き合っていた彼女のことを言っているのだろうか。
「早苗という娘だよ」
「あー、確か、背がちっこくて目がクリクリしていて可愛らしい彼女だったな。ちょっと気の強かったかな。それがどうしたんだよ。いてっ」
中川は押さえつけられた手を更に力を込められて痛みが走る。
「その娘は私の妹」
「え、そうなの。苗字も一緒だと思っていた。アイツは元気にしているのか」
「元気?冗談じゃない。今は入院しているよ。早苗は」
「えっ。なんで入院しているの」
「それは。精神的な病で。私はずっと別れた男を探していた。10年前に私の妹はあなたと別れた後に公園で暴漢に襲われたんだ。
あなたはそばにいたのに助けなかったでしょう。私は調べて知っている」
「そんなことがあったのか。知らなかった」
中川の頬にに冷たい銃口強く押し付けられながら動揺した。
「まさか、お前から探しているこの私に近づいてくるとは思わなかった。ただこの日が来るのをずっと待っていた。お前と妹のつながりに確証が持てなかったから年月が経ってしまった。自ら白状してくれたのが良かった」
中川は何も言わない。
「なぜ、あの日に妹を振って、公園に置いて行ってしまったのか。せめて駅まで妹を送ってくれさえすれば妹は巻き込まれなくすんだのに」
「そんなことを言われたって。俺は関係ないだろう」
「関係ないとは言わせない。お前が妹の面倒を見ていれば、振らなければこんなことにはならなかった。さてどう償うつもりだ。私はこの為に警察官になった。そして頑張って、頑張って出世して刑事になった。この仕事の合間に真相を調べてここまでたどり着いた。刑事になったのは妹の借りを返すためだ。」
パラリパラリ。
バイクが横を通りすぎた。
智子は一瞬目線がそっちに行った。
中川は腕を手解きしゃがんだ姿勢から
ポケットに手を入れた。
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