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自分に魔力があることは測定で分かっているが、自分が何がしたいのか、何ができるのかはまるで分からなかった。
何かになりたい気もしたけれど、何にもなれない気もしたし、世界のありようも知らなかった。
だから、手持無沙汰になってしまった俺は人気のない中庭の大きな木の下に座り込んだ。
それから、時間つぶしのために歌を口ずさんだ。
上手くはないと思う。それまで誰かに褒められたこともなければ才能を認められたこともない。
他の人間とうたっていればいつも褒められるのは別の人間だったし、それを覆してやろうという情熱もなかった。
本当に単なる暇つぶし以上のものはなにもなかったのだ。
自分の下手くそな歌を聞いている人間がいるとは思わなかったし、その聞かれた人間にパートナーを申し込まれるとも思っていなかった。
入学してすぐに、学園の“王様”と呼ばれる上級生からパートナーを申し込まれたときには驚きすぎて、呼吸も忘れた。
一体なぜ、暫く時間が経って漸く言葉を発せられるようになると、「歌を聞きたかったから。」と簡潔に答えられた。
眠るときに歌を聞きたいらしい。
自分じゃなくてもと言ったが他では駄目だの一点張りだった。
中庭で歌を聞いた話をされ、何故それが自分だとわかるのかと思った。
簡単に追跡魔法を使ったからだと答えられた。
あり得ないと思った。
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