狐とマシュマロ

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 私の名前は高橋小春(たかはしこはる)。どこにでもいるような平凡な高校生だけれど、ひとつだけ変わっていることがある。  それは一風変わったお店で、住み込みでバイトをしていること。  そのお店は、一見すると小さな二階建ての日本家屋。けれど東には人の世に繋がる橋を持ち、西にはアヤカシの世に繋がる橋を持つという小さな茶房。  名前を『茶房 幻橋庵(げんきょうあん)』という。  茶房とはいうものの、軽食を提供する傍らでアヤカシや人間のお客さんの相談に乗ってあげたり、対価を受け取る代わりに願いを叶えたりしているのだから、仕事内容は何でも屋に近いかもしれない。  目前にいる男の人は、そんなお店にやってきた『律』ちゃんという女の子のお兄さんである。 「そ、それで、あの、律ちゃんのお兄さんがどうして学校に…?」 「君に相談があって」  狼狽える私に対し、お兄さんは飄々と答える。  お兄さんと律ちゃんはアヤカシ。それも色々なものに化けられる狐である。実は以前、会うのを禁じられていた二人が出逢えるようにお手伝いをしたことがあるのだ。  その時のお兄さんはは二十代くらいの外見で、着ているものも着物だったけれど……今日は制服姿。見た目も私と同年代くらいになっている。  狐は色々なものに化けられるらしいから、きっと年齢も変幻自在なんだろう。 「……と、まだ名乗っていなかったね。俺の名は『(さい)』という。どうぞよろしく」 「あ、はい。私は小春です。よろしくおねがいします」  自己紹介してくれるお兄さん…もとい、最さんに慌てて頭を下げると、丁寧に一礼してくれる。  うん、やっぱり律ちゃんのお兄さんだ。無表情だけど優しそう。 「それで、相談というのは…?」  尋ねながらも、何となくこれかな?という予感はある。  兄妹が会う為にあれこれ作戦を立てたのが、先月のバレンタインの時期。折角だからチョコと一緒にチョコに化けた律ちゃんをお出ししてみよう! という内容で、その後とくれば――…… 「うん。律と我が深鏡池(みかがみいけ)の主に、お返しをしたいと思って」  そう、ホワイトデーである。
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