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『鈴木まさお相談事務所』と看板を掲げたビルの一階には、とあるカフェがあった。
『喫茶・ルノワール』
艶やかな長い黒髪を後で三編みにした女性が、今メイド服の袖に腕を通した。
胸元のブラウスと一体となった、落ち着いた種類の桃色のロングワンピース。
みぞおちの高さでスラット締まり、そこからフワッと広がる、肩に大きな羽根の付いた真っ白なエプロンを後でリボンのように締めると、彼女の一日が始まる。
まだ誰もいない朝一の店内。
木質の壁やフローリングに差し込む柔らかな朝日が陰っている所に白色のストライプを描く。
朝一のひんやりとした空気は、その朝日と共に朝露を作り出し観葉植物の葉の上でキラリキラリと輝いていた。
無音の広がるこの落ち着いた雰囲気が、いつも彼女にヤル気を与えてくれる。
「さあ、今日も一日頑張ろう!」と、彼女は一人で気合いを入れた。
そして、彼女がまず向かった先はカウンター内の厨房。
そこには、愛らしく媚びた目で待つ6匹の猫達がいた。
「みんなぁ、お待たせ~ご飯だよ。」
彼女は猫を掻き分け床下収納からカリカリのキャットフードの箱を取り出した。
ガサガサっと彼女がイタズラに音をたてると猫達は目をまん丸にして横一列に整列、良い子にその時をまった。
クスリと笑う彼女、彼女にとってこのルーティンもまた一日の原動力だった。
猫にご飯を配り終えると正面ドアがコンコンっとノックされた。
「あ、きっと店長ね。」
はぁい今開けまぁす……、と彼女は小走りでドアを開いた。
夜中、室内に閉じ込められていた部屋の低気圧が爽やかな外の風を誘い込む。
そして、そこに立っていた長身で細身で、切れ長で少し垂れ目な男の髪を柔らかく揺らした。
その時香る彼の優しい香水の匂いもまた彼女のやる気の源だった。
彼はにこやかに笑うと、にゃ~っと言う鳴き声が聞こえてきた。
彼は子猫を抱えていた。
「もう~店長また拾って来ちゃったんですかぁ?」
「だって、僕を呼んでたんだもん。」
彼女は彼を引き入れると、大きめな看板を表に出した。
『鈴木まさお相談事務所、一階で承ります。喫茶店営業8:00~18:30ペット同伴化です。しかし、店内多数の猫がおります。喧嘩の無いようよろしくお願い致します。』
こうして、一日が始まる。
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