彼女について

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僕は売れない芸術家で、彼女は独り身のOLだった。僕は高校を出てすぐに独学で絵を描き始め、それを路上で販売する日々を送っていた。そして彼女は真っ当に大学を出て東証一部の大手食品会社に入社し、そこで社内恋愛をした。そうしてすぐに、驚くような速さで失恋した。理由は単純だった。指が百本ある彼女の容姿を、集合恐怖症である相手の男が気味悪がったのだ。 一方、路上アーティストとして食っていけないことを半年で悟った僕は、デフォルメされた似顔絵であるカリカチュアを主軸に絵を描くことで、何とか食い扶持を繋いでいた。客毎に描いた抽象画と、それを組み合わせたカリカチュアが僕の売りだった。それを2年ほど続けていた。評判が広まったのか、それなりに客は来るようになったが、それでもまだ一人暮らしの生活費を稼ぐには足りなかった。僕は深夜のコンビニバイトを掛け持ちし、その収入でなるべくカロリーの高くて安い食材を買った。 傷心の彼女と僕が出会ったのは、ある意味必然だったのかもしれない。彼女は僕の客のひとりだった。 「似顔絵を描いてください」     
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