茹だる夏、扇風機と俺と

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 茹だるような暑さの夕刻、204号室の矢野秀介は、折りたたみ式の卓袱台にぐったりと伏せっていた。  秀介は今年の春このアパートに越してきた1回生だ。念願叶わず滑り止めの大学に入学したものの、それなりに充実した学生生活を謳歌している。  秀介の家庭は控えめに言っても余裕がない。それゆえ秀介は学費と生活費のため、安いアパートに暮らしながらバイト三昧の日々を送っていた。  春休みの準備期間に秀介が大学近郊で見つけたこの古アパートは、家賃月一万足らずと経済的な反面、機能性に劣り風呂もベッドも無い。クーラーなどという気の利いたものも当然無く、それゆえ秀介はタンクトップにトランクスという出で立ちで薄手のカーテンを閉めたまま窓を全開にし、実家から持ち出した1メートル程度の高さの扇風機でどうにか猛暑を凌いでいた。  肩に掛けたタオルが汗を吸って臭う。体にぺったり貼り付いた下着が気持ち悪い。もう少ししたら風呂屋に行こうと、心持ち冷たい天盤に頬を付けてぼんやり考える。90度傾いた視界の中で、バイト情報誌が扇風機の風に煽られ、ひらめいた。
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