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男性は祖父が認知症にかかってしまっている事実を告げた上で娘に判断を委ねると、それでもいいと言って戻ってきた。
娘は話の通じるようで通じない祖父に、何やら悩み事を話していたらしい。
男性が仕事から帰ってくると、祖父と娘はまるで同世代の友人のように親しげに食事の支度を手伝っていた。
60段目、男性は仕事を定年退職した。
ようやく祖父の面倒を見れると思った矢先、祖父は旅立っていった。その寸前には私に「生まれてきてくれてありがとう」と、掠れた声で言ったのだ。
言い様のない怒りと悲しみが襲ってきた。男性はここにきてもなお、守られ、愛され、人の子供だということに気づかされたのだ。
しかし悲しいことだけではなかった。
祖父が亡くなってすぐ、娘には恋人が出来た。
穏やかな優しい物言いをする男性で、妻は「昔のあなたにどことなく似ている」と娘が見ていない場所で言った。
男性が祖父になったのは63段目だった。
まだ幼い男の子を連れ、娘はしばらくうちで生活することになった。やんちゃ盛りの男の子は、すぐに物を壊し、落書きをし、家の外へ飛び出していった。
それを追いかけるの必死で、体が昔のように言うことを聞かなくなった男性の毎日にも張りが出た。
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