鷲の恋物語-鷲崎 紬side-

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何の前触れもなく、突然恋という物には落ちてしまうもの。 そんな言葉を読んだのは、当時熱中していた少女漫画でだったのか、はたまた小説だったのか。 記憶は曖昧で定かではなかったけれど、その言葉に出逢って以来、確かな事が一つだけあった。 「恋って…何。」 それは、私自身が恋という物が何なのかを知らない事だった。 好きが分からない。 愛してるだなんてもっと分からない。 家族や双子の鷹以外に対して、愛なんて感情を抱ける自分がどう考えても想像できなかった。 私が家族以外に好きな物はデザインだけ。 着る人を幸せにしたり、気分を躍らせたりすることのできる洋服を、いつか自分の手で作ってみたい。 いつの日か、誰かに着て貰いたい。 そんな夢と希望を強く持っていた私は、周囲の同い年の子達が恋愛に心を躍らせているのを傍らに、どんどんデザインの世界へとのめり込んで行った。 だからこそ、吃驚したのだ。 「この着物のデザイン、とても素敵だね。」 優美に微笑んだ彼に初めて面と向かって言われた言葉。 心が。 胸が。 大きく音を立てて、恋に落ちた。
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