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正面から返された耳を疑う言葉に、僕は瞬きを繰り返した。
「ベッドの上?」
「紬ったら、僕にしがみついてくれて酷く艶やかだったよ。」
「おい。」
「好きな人との情事って、あんなにも幸せなんだね。」
「おい蜜。」
「だからね凪咲、僕と紬はくっついたというよりは繋がったよ。」
「いや何も上手いこと言ってないし、それとなく下の名前呼びになってるのが割と腹立つけどそんなことより!!!!!」
「ん?」
「え、何、鷲崎さんともうセックスしちゃったの!?!?」
驚愕。
その言葉しか出てこない。
目を見開いて詰め寄る僕に、視線を泳がせた後に頬を赤らめて小さく頷かれた。
何処の乙女だ、何に照れているんだこいつ。
「蜜、セックスだなんて破廉恥だよ……性行為って言って。」
「ごめん、僕には違いが分からないんだけど。」
というより、そこは微塵も重要じゃない。
「え、何処で?」
「勿論僕達が同棲している愛の巣で。」
「もしかして蜜の寝室に入れたの!?あのモニターだらけの気色悪い部屋に!?!?!?」
そんなまさか。
僕が甘く見過ぎていたのかもしれない。
童貞を拗らせている蜜の事だから、恐らく鷲崎さんとそういった情事をするのはまだまだ先だろうと勝手に決めつけていた。
それまでに、世の中の常識的ステップを僕が教えてあげれば良いと余裕を持っていたというのに……。
初っ端からやらかしてくれるなんて。
忘れていたよ、蜜には常識なんて物が通用しないって事を。
だって見て、勝手に調べ上げて鷲崎さんの隣に部屋を借りただけの変態の癖に、それを同棲と言ってしまうんだよこの人。
自分を正当化するだけでなく、ポジティブ過ぎる捉え方をしてしまうんだよ。
「鷲崎さん、あの部屋見て引いてなかったの?」
駄目だ、眩暈がしてきたよ。
陰から親友の恋路を見守ってきて、漸く幸せを掴んでくれたのに、このままでは幸せな時間もあっという間に崩壊してしまうんじゃなかろうか。
自分の事でもない未来に、不安が募っていく。
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