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急に何かを思い出したように立ち上がった蜜が、ごそごそと自分の鞄を漁り始めた。
「そういえばね、紬が愛妻弁当も作ってくれたの。」
「まだ妻じゃないけどね。」
「何言ってるの、僕と紬はもう事実婚状態だよ。」
そっちこそ何言ってるんだ、本当に頭可笑しいな。
「…それで、紬が凪咲にも弁当渡してだって。」
「え?」
「くっ…渡したくない…紬の手作りを凪咲なんかに…くっ…。」
大袈裟なくらい苦しみながら僕の膝の上にお洒落な袋を乗せた蜜。
それを開くと、本当にお弁当が入っていた。
まさか僕にまで作ってくれるとは思わなくて、素直に驚く。
もう既に出来た嫁だね鷲崎さん。
「あれ、これ……。」
僕の目に留まったのは、弁当箱の上に置かれた小さく折りたたまれた紙。
それを手に取ってそっと開いた。
『鵜藤さんへ、私が雀宮さんへの気持ちを何度か諦めようとする度に、鵜藤さんが背中を押してくれたおかげで今、幸せです。ありがとうございました。』
短く、美しい達筆で書かれた内容が実に彼女らしいと思った。
その手紙に、僕の頬が緩んでいく。
蜜の秘書としてこの会社に入社した時から、蜜の鷲崎さんへの愛情が立派なストーカーだと認識していたと同時に、鷲崎さんが蜜に対して恋心を抱いていることも察していた。
勿論、二人が結ばれる事を願っていたけれど、僕にはするべき事があった。
それは、蜜に自分がストーカーだと自覚させ、正当な方法で鷲崎さんにアプローチをさせる事だった。
奥手でツンデレな鷲崎さんが、積極的になれるとは考えにくかったからこその作戦だったのだけれど…。
蜜が自分の危なさに気づくまでが相当長かった。
「こちらこそ感謝しかないよ。」
正直、夜鷹織という人物の登場は実にありがたかった。
蜜が夜鷹織の情報を集めろと僕に言ってくるのが目に見えていたからだ。
だから僕は、鷲崎さんと夜鷹織が双子だという事実を伏せ、二人が婚約同士なのだと蜜が思い込むような芝居を打ち、さも何も知らないような素振りで昨日、帝王ホテルまで赴いたのだ。
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